心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
69 夜、グレイの部屋へ
夜の11時過ぎ。
マリアはお気に入りの白い枕を抱きしめ、グレイの部屋の前に立っていた。
これまで何度も来たことがあるのに、なぜか少し緊張している。夜に訪れるのは半年ぶりだからだろうか。
昼食も夕食もグレイと一緒だったが、あまり話はできなかった。マリアの帰宅に喜ぶ使用人達が、みんな部屋に集まってきていたからである。
皆の前で、自分のことを嫌っているのかなどと聞くことはできなかった。
やっぱり夜にお兄様の部屋に行くしかない! と改めて決意をしたマリアは、こうして寝巻き姿のままやって来たのである。
……扉の隙間から明かりが漏れてる。
お兄様はまだ起きてるわ。
よし! と気合いを入れ、マリアは扉をノックした。
コンコンコン
「なんだ? ガイルか?」
扉越しに聞こえてきたグレイの声に、マリアの心臓がドキッと跳ねる。枕を少し強く抱きしめ、少し震える声をなんとか絞り出した。
「あの、マリアです」
「……マリア?」
「はい」
いつもならすぐに入れと言われるのに、なぜか何も返事がない。
静まり返った暗い廊下に1人立っているマリアは、どうしたのかと不安に襲われた。
あ、あれ? 何も返事がない。
迷ってる? 来ないほうが良かった?