心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
自分の上目遣いがどれほど魅力的なものなのか。それをわかっていないマリアは、グレイが一瞬戸惑ったのに気づいていなかった。
ジーーッと目を逸らさずに見つめ続ける。
グレイもマリアから目を逸らすことなく、何かを考えた様子で見つめ返してくる。
たったの数秒、数十秒ではあるが、マリアとこれだけの時間目を合わせたままいられる男性は、グレイとレオ……あとはガイルだけだろうか。
つき合いの長いエドワード王子だって、マリアと数秒目が合っただけで勢いよく逸らすくらいだ。
自分から目を逸らさずに見つめ続けてくれるグレイに、マリアは嬉しくもありどこか恥ずかしくもあった。
「お兄様……ダメ?」
「はぁ……全く。中身は変わってないな」
中身が変わってない。
それが褒め言葉なのかどうかマリアにはわからなかったが、部屋に入れてもらえたことにホッと胸を撫で下ろした。
良かった! 拒否されなかった!
いつものようにベッドに進み、グレイの枕の横に自分の枕を並べる。そしてニコニコしながら振り返り、ある違和感に気づいた。
あれ? なんでお兄様、こっちに来ないの?
いつもなら、マリアの隣に座り、ベッドに横になったマリアに布団をかけてくれるのがお決まりのコースだ。
なのに、なぜかグレイはベッドから離れたソファに座っている。
「……お兄様、こっちに来ないの?」