心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない

「なんで泣くんだ? そんなに怖いのか?」


 検討はずれなグレイの質問。
 自分の態度のせいでマリアが傷ついているとは、全く考えていないらしい。
 少し迷い、マリアは返事をした。


「……うん」

「何がお前をそこまで怖がらせる? 今回の旅で何かあったのか?」


 マリアは首をフルフルと横に振った。


「じゃあ、なんで……」

「お兄様に嫌われちゃったのかと思って」

「……え?」


 目の前にある碧い瞳が、丸くなった。
 不安で胸がいっぱいだというのに、マリアは心のどこかでその碧い瞳を綺麗だと思っていた。

 宝石のような、透き通った美しい色。
 一瞬硬直していたグレイが、ゆっくりとマリアの頬から手を離す。


「なんで俺がマリアを嫌うんだ? なぜそう思った?」

「だって……抱きしめた時もすぐに離されちゃったし、今だって……マリアに近づいてくれなかったから」

「…………」


 グレイからの返事が止まり、マリアはグレイから目を逸らして俯いた。
 グレイの表情を見るのが怖かったからだ。

 言い当てられてしまった、といったような困った顔をしていたらどうしよう。
 そう考えると、グレイの顔を見ることができない。
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