心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
落ち着いていたはずの心臓が、気づけばまた速くなっていた。
「マリア」
グレイの落ち着いた低い声に、思わずビクッと身体が震える。
マリアはゆっくりと顔を上げて、グレイと目を合わせた。
気まずそうでもなく、困った様子でもないいつも通りのグレイの無表情に、今は少し安心してしまう。
「俺がマリアを嫌いになることはない。絶対に」
「……お兄様」
そう言って、まだ微かに残っていた涙を拭ってくれる。
不器用なグレイは、嘘をつかない。それをわかっているマリアは、グレイの言葉に心から安心することができた。
嫌われてはいない……! よかった!
ホッと安心すると同時に、湧き上がってくる疑問。
嫌いじゃないなら、なぜ態度が少し変なのか。なぜ、拒否されたのか。
「じゃあ、もう1回……抱きついてもいい?」
「!」
不安を完全に取り除きたかったマリアは、もう一度おねだりをした。
ベッドの上に座っている、寝巻き姿の2人。
手を伸ばせばすぐに抱きしめることができるほど、2人の距離も近い。
マリアが悪夢にうなされた夜、グレイが眠る時に抱きしめてくれたこともあった。
あのなんとも言えない安心感を、マリアは実感したかった。拒否されたあの嫌な再会をやり直したかった。
ここにレオやガイルがいたなら、「この状態ではダメ!」と止めただろう。
でも、ここにはレオもガイルもいない。
ここにいるのは、心がまだ子どものままでいる純粋なマリアと、なぜあの時マリアを拒否したのか自分でわかっていない無自覚な男だけである。