心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
グレイに抱きつき、拒否した原因が成長したマリアの胸だったとわかった後……グレイはいつものように、横になったマリアに毛布をかけてくれた。
自分はまだ眠るつもりがないのか、グレイは横にならずにベッドに座ったままだった。
「お兄様はまだ寝ないの?」
「まだ寝る時間ではないからな。マリアは疲れてるだろうし、もう寝ろ」
「うん。おやすみなさい」
そう言って、グレイの服の裾を握りしめながら眠りに落ちたマリア。目が覚めた時には、目の前にグレイがいるはず。隣で眠っているはず。
そう思っていたのに……。
「……なんで?」
朝早くに目覚めたマリアは、自分がベッドに1人で寝ていることに気づいた。隣には、グレイどころか人が寝ていた形跡すらない。
冷たいシーツを軽く撫でて、マリアは部屋を見回した。
いた!
グレイはすぐに見つかった。長ソファに横になり、薄い毛布をかけて寝ている。
マリアがこの部屋に来た時には、この薄い毛布はなかった。マリアが寝た後に調達したのだろう。
つまり、それはグレイがたまたまここで寝てしまったのではなく、元からここで寝ようとしていたということになる。
最初からベッドに来るつもりがなかったってことだ。
マリアは裸足のまま長ソファに近づき、グレイの寝顔を見つめた。そして、静かにその場にしゃがみ込む。
「……なんで一緒に寝てくれなかったの?」
マリア自身にもやっと聞こえるくらいの小さな声。
すやすやと眠っているグレイには、もちろん届いていない。
マリアはもう一度眠る気にならず、自分の枕を持ってグレイの部屋から出た。