心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
「エドワード様。私は中庭でもいいよ」
「……マリアは黙ってろ」
エドワード王子は、マリアの提案も却下して歩き続ける。
こうなった王子が意見を曲げないことは、つき合いの長いマリアにはわかる。そのため、それ以上は言うのを諦めて大人しく歩き続けた。
場所なんてどこでもいいのに、なんでエドワード様もレオもそんなに拘ってるんだろう?
2人の後を追いかけてくるレオが、小声で「グレイにバレたら怒られる……」と呟いていたが、2人の耳には届かなかった。
所詮はこの国の王子と騎士。エドワード王子の言うことに、レオが逆らえるはずがないのである。
「いいか? 俺達が出てくるまで、誰もこの部屋に入れるなよ?」
「……かしこまりました」
エドワード王子は、自分の部屋に着くなりレオに向かって念押しした。レオの困り顔には気づいているはずだが、そこは触れないことにしたらしい。
王子はマリアの腕を掴んだまま、部屋の中に入り扉を閉めた。
幼い頃に何度か来たことのある、エドワード王子の部屋。
それでもここ数年、マリアはこの部屋に入ったことがなかった。会うのはいつも応接間のような部屋か、庭やパーティー会場だったからだ。
マリアが懐かしい空気を感じていると、少し照れた様子の王子が話しかけてきた。
さっきまでの堂々とした態度はどこかに消えたらしい。
なぜかソワソワしながら部屋の真ん中にある椅子を指差した。