心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
72 エドワード王子の自棄
ドリンクを噴き出して口の周りからボタボタと水滴が垂れているというのに、拭く気配もなくエドワード王子は固まっていた。
マリア側からは王子の長い前髪が邪魔で、どんな表情をしているのか見えない。しかし、漂ってくるオーラで怒っているのだけは感じていた。
「エ、エドワード様? 大丈夫……?」
マリアが恐る恐る声をかけると、王子は少しだけ顔を動かしマリアに視線を向けた。
真っ直ぐにマリアを見ているものの、心はどこかへ行ってしまっているような……据わった目をした王子は、静かなトーンでマリアに尋ねた。
「今、なんて言った?」
「え?」
「さっき。兄と一緒に……なんだって?」
「え、えと。お兄様が一緒に寝てくれなかったって……」
「同じベッドで、って言ったか?」
「う……うん……?」
エドワード王子は昔から怒ると激昂するタイプで、こんなに静かな状態は初めてであった。
……怒ってるかもって思ったけど、気のせいだったのかな?
そうマリアが考えていると、王子は冷静なテンションのまま質問を続けてきた。テーブルの上で指を組み、背筋を真っ直ぐに伸ばしている。
普段の偉そうに座る王子とは全然違う礼儀正しい態度に、マリアはなぜか不安になった。
「マリアが兄の部屋に行ったのか? 兄がマリアの部屋に来たのか?」
「……私がお兄様の部屋に行きました」
まるで尋問でもされているかのような雰囲気に、マリアはつい敬語で答えてしまった。
王子と同じように背筋を伸ばし、手はテーブルの下でモジモジと動かしている。