心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
ニヤリと笑うエドワード王子に、マリアは言葉を失った。
グレイにそんなことを言ってどうなるというのか、そもそも、手を出すとはどういう意味なのか、マリアには理解不能である。
その後、王子が部屋の扉に向かって歩き出したところで、マリアは自分が抱き上げられていることを思い出した。
「そういえば、なんで私抱えられてるの? 下ろしてっ」
「嫌だ。このまま行く」
このまま!? 王宮の中を!?
王宮内にはたくさんの使用人や騎士がいる。その中をこの状態で進んでいくなんて、恥以外のなんでもない。
マリアは顔を少し赤らめて、必死に抵抗した。
「やだっ。お願い、下ろしてっ」
「……じゃあ、『エドワード様かっこいい。エドワード様大好き』って言ったら下ろしてやる」
「ええっ? ……それ言ったら結婚の許可したことには……」
「ならないから安心しろ」
それなら……と、マリアは素直に言うことにした。この状態で部屋から出られるよりも、数倍簡単なことだからだ。
マリアは王子を上目遣いに見つめ、少し小さめの声を出す。
「エドワード様かっこいい。エドワード様……大好き」
「!」
そう言った途端、王子の腕の力が抜けたように下がった。
危うくお尻から落とされそうになったマリアだが、なんとか足を先につけて転倒を免れることができた。
急にどうしたのかと王子を見ると、なぜか王子は両手で自分の顔を覆っている。