心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない

 マリアから離れたら、鼓動が落ち着いてきたぞ。
 やはり、原因はマリアなのか……? 
 今までは平気だったのに、なぜ?



 そんなことを考えながらグレイがソファに移動すると、普段よりも小さめの音で扉をノックされた。
 こんな時間にやって来る人物といえば、この屋敷の中で1人しか浮かばない。
 グレイは目を細めて気怠げに返事をした。


「……なんだ」

「失礼いたします」


 想像通りの人物──ガイルが、頭を下げながら部屋に入ってくる。
 その手には、薄い毛布が抱えられている。


「何もかけずに眠られては風邪をひきますので、こちらをお持ちしました」

「ご苦労……と言いたいところだが、なぜ俺が何もかけずに寝ることが前提になっているんだ?」

「マリア様がグレイ様のお部屋を訪ねておられましたので、必要になるかと」

「…………」


 マリアが俺の部屋に来たら、なぜ俺が何もかけずに寝るという結論になるんだ……そう言おうとして、グレイは言葉を止めた。
 ガイルがどうしてそんな結論を出したのかは不明だが、実際にそれが現実となっている。
 まさにグレイは、鼓動の落ち着くこのソファでそのまま寝てしまおうと考えていたのだ。



 相変わらず、先読みの恐ろしいジジイだな。



「はぁ……。まぁ、それは受け取っておく」


 グレイがため息まじりに毛布を受け取ると、想像していたよりも重いことに驚いた。ズシッと手に重みが乗っかる。
 しかし、その触り心地ですぐにそれが毛布だけでないことに気づいた。


「……これは、なんだ?」

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