心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
グレイはそう問いかけたい気持ちを抑え、なんとか話を続けた。
マリアの意思を無視して、勝手に話を進めようとしているこの馬鹿な王子を止めなくてはいけない。
「本人が望んでいない限り、承諾できません。それがたとえ王子だとしても……です。マリアは聖女ですから、無理矢理に婚姻させることはできないはずです」
そう。普通であれば、王子からの求婚に伯爵家が断ることなどできない。見初められたなら最後、素直に嫁がせるしかないのだ。
しかし、この国の宝である聖女マリアは大公家と同じ地位であった。王族と同等とまではいかないが、断る権利はある。
そのため、国王も勝手にマリアを王子の婚約者として話を進めることができなかったのである。
はっきり承諾できないと伝えたというのに、エドワード王子は怒った様子も困った様子もない。
余裕そうな態度を崩さず、王子は逆にグレイに尋ねてきた。
「そうだな。だが逆を言えば、マリアが承諾したら結婚してもいいということだよな?」
「……はい?」
ニヤリと笑うエドワード王子を、グレイは目を細めて見た。
ピリッと張り詰めた空気に、レオが1人オロオロしているが誰も気づいていない。マリアは王子の言葉に目を丸くして、ガイルは静かに成り行きを見守っている。
「ヴィリアー伯爵が反対する理由は、マリアが望んでいないから……なんだよな? ということは、マリアが望めば反対はしない。……そうだろう?」
「…………」