心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
「帰るから見送らせるだけだ」
「そうですか。では、手は離していただけますか?」
「なぜだ?」
「なぜって……」
グレイは王子に掴まれているマリアの白い手を見た。
手首を掴まれていたはずなのに、王子はグレイを挑発するかのようにその手を移動させて指を絡ませている。
『掴まれた』から『握られた』に変わった瞬間、グレイの胸にドスッと重い何かがのしかかってきたような感覚が走る。
心の中が一瞬で真っ黒に塗りつぶされたようだ。
その腕を切り落としてやろうか……。
グレイの碧い瞳が影に覆われた時、マリアが慌てたように声を上げた。
「あっ、あの、私、エドワード様を見送ってきますっ! 行こう! ねっ! 早く!」
「わ、わかったから押すな!」
マリアはエドワード王子の背中をグイグイ押し出すようにして、急いで部屋から出ていった。
部屋から出ていく王子と一瞬目が合ったが、グレイはもう何も声をかけなかった。
2人とレオがいなくなった途端、執務室にはいつもの静けさが戻り、しーーんとしている。