心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
やけにニヤニヤしながら見守っているレオを無視して、グレイはマリアとの会話を続けた。
「好きでもない相手と、無理に結婚する必要はない」
マリアをさらに安心させたくて言った言葉であった。
この言葉を聞いたマリアは、きっと良かった〜と言って笑顔になるだろう……そう思って言ったのだが──。
「え? 私、エドワード様のこと好きだよ?」
「…………え?」
黄金の美しい瞳をキョトンとさせて、マリアは言った。
グレイの思考が一瞬止まる。
レオがギョッとして口元を手で覆ったのが視界の片隅に見えた。
……好き?
マリアが、あの生意気王子を好き……だと?
「嫌いじゃ、ないのか?」
「嫌ってなんかないよ」
「なら、なぜ結婚を嫌がったんだ?」
「嫌っていうか、エドワード様と結婚したらお兄様と一緒に暮らせなくなるから……」
マリアは少し恥ずかしそうに視線を外した。
愛らしいその仕草も、今のグレイにはよく見えていない。
俺と暮らせなくなるから、結婚を嫌がっただけ?
あの王子が嫌だったわけではない……?
グレイは大きなショックを受けていたが、自分がショックを受けていることに気づいていなかった。
頭が真っ白になる。変な焦りを感じる。
胸に黒く重い石が入ってしまったかのような、妙な苦しさにグレイは戸惑っていた。