心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
冗談で言ったつもりはなかったのに……と思いつつ、こんなに必死なレオはめずらしいので、マリアは素直に返事をした。
レオは顔に冷や汗をかいていて、マリアの返事を聞いて心からホッとしているようだった。
レオってば、何も教えてくれないのに『ダメ』ばっかり!
マリアは少し拗ねて唇を尖らせたが、レオの疲れ切った姿を見るととても文句は言えなかった。
2人は黙ったままグレイの執務室に向かって歩いていく。
階段を1段1段上がるたび、今グレイはどんなことを考えているのか……とマリアは不安に襲われた。
さっきは私を他の男に渡したくないって言ってくれたけど、エドワード様の突撃をきっと面倒だと思ったよね?
こんなことが続いたら、私のことも面倒に思われて結婚していいって言われちゃうかも……。
お兄様に謝らないと! まだ、私はお兄様と離れたくないよ……。
執務室に戻ってすぐ、マリアはグレイに謝罪した。
先ほどまでは機嫌の悪かったグレイが、なぜか今は少しご機嫌に見える。
わざわざ席を立って頭を撫でてくれるグレイに、マリアは心底安心した。
エドワード様が勝手に言い出したことなんだろ……って、ちゃんとわかってくれてた。お兄様が怒ってなくて良かった……!
マリアがホッとしてニコニコしていると、グレイは機嫌良さそうな様子で言った。
「好きでもない相手と、無理に結婚する必要はない」
そのセリフに、マリアは「ん?」と引っかかった。
マリアが王子との結婚を拒否しているのは、グレイと離れたくないからだ。まだこれからもグレイと一緒に暮らしたいからだ。
エドワード王子のことを好きじゃないからではない。
深く考えることもなく、マリアはその素直な気持ちを口に出した。