心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
レオの質問に、グレイは少し間を置いて答えた。
その一瞬の顔色を見て、そしてその意味深な答えを聞いて、レオはすぐに何か理由があるんだと察した。
今回、マリアを王子に任せることにした何か特別な意味が──。
しかし、マリアはそれに気づいていない。
「わかった……」
シュンと落ち込んだマリアは、ゆっくり立ち上がるとフラフラとした足取りで執務室をあとにした。
レオも後ろからついて来ているが、どう声をかけたらいいのか迷っているのか黙ったままだ。
どうしよう……。
お兄様が他の女の人をエスコートするなんて……よくわからないけど、なんかすっごく悲しい!
やっぱり、エドワード様に頼んでみようかな……。
聖女として研究室の手伝いをしているマリアは、自由に王宮を訪れていいことになっている。
エドワード様からもいつでも来ていいと言われたばかりだし……と、マリアは早速次の日に王宮へ行こうと決意した。
*
次の日。王宮に着くなり、マリアはすぐにエドワード王子への謁見を申し出た。
いつもは声をかけずともマリアの来訪を知った王子から顔を出してきたため、マリアから会いたいと伝えてもらうのは初めてであった。
すぐに王子の許可がもらえ、マリアは王子の部屋へと案内される。
「マリア様、こちらへどうぞ」
エドワード王子の執事が椅子を引いてくれたので、マリアはその椅子に座りレオは少し離れた壁際に立った。
すでに座って待っていたエドワード王子は、どこかソワソワしているように見える。
メイド達が紅茶などの給仕を終え離れたところで、王子がすぐに口を開いた。
「こんな朝からなんだよ。マリアから俺に会いたいと言ってくるなんて、まさかこの前のことを前向きに考えて……」