心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
話を聞いていたレオが、壁際で「だからグレイも反対しなかったのか……」と小さな声で呟いている。
聖女のお披露目パーティーに参加しなかったとはいえ、各国に広まる聖女の噂は耳にするだろう。
稀に見る美少女であることも、周りの国には伝わっているはずだ。
美女好きのアドルフォ王太子は、必ずマリアを狙ってくるに違いない。
「相手が伯爵の兄ではなく王子である俺のほうが、向こうも手を出しにくいはずだ。だから、今回は俺とマリアがペアになることはみんなが認めてることなんだよ」
「……そう、なんだ」
「だからマリアのパートナー交換の話は却下! この話もこれで終わりだ! ……で、次の話にいくぞ?」
「!?」
エ……エドワード様の声が、すごく低くなった……?
バッサリと会話を終わらせたと思ったら、エドワード王子の顔色がドス黒く変わっていく。
先ほどまでも十分機嫌が悪そうにイライラしていたというのに、さらなる怒りがプラスされていくかのようだ。
漂ってくる怒りのオーラに、マリアの背中にはゾクゾクと冷たいものが走り抜け、全身には鳥肌が立ってしまっている。
「エドワード様……?」
「マリア……。俺、この前お前に告白したよな? それなのに、その俺に向かって『パートナーを変えてほしい』なんて言ってくるとは……いい度胸だな?」
「え? え?」
マリアが怯えた様子で戸惑っていると、エドワード王子は自分の執事とレオに視線を向けた。
猛獣のような王子にギロリと睨みつけられ、レオの顔が真っ青になっている。
「すぐに終わるから、2人とも出ていけ」
「で、ですが……」
「早くしろ」
怯えながらも言い返そうとしたレオを、執事が無言のまま部屋の外まで押し出していく。
こうなったら聞かないことを、執事はよくわかっているのだ。
部屋に猛獣王子と2人きりで残されたマリアは、小動物のように縮こまりながら王子を見つめた。