心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない

 こうしてすぐ潰れると思われたヴィリアー伯爵家は、意外にも順調に経営を続けていく。
 財政困難になることもなく、むしろ以前よりも裕福になってさえいた。

 骸骨のように痩せ細り、20は老けて見えていたイザベラも、気づけば昔の美しさを取り戻してきていた。
 肉付きも良くなり、顔の血色も良くなっている。

 あの女にこんなにも経営能力があったのかと、グレイは驚いていた。とてもではないが信じられない。
 だからといって、不正などしていないか調べようとは思わなかった。


 イザベラが伯爵家を継いで1年経った頃、グレイは初めて自分の母親の行動を意識するようになっていた。
 決して家族としての愛情からではない。ただの小さな好奇心だった。


 イザベラはなぜか毎日夫と女が暮らしていた別邸へ足を運んでいる。
 昼間はほぼ別邸に入り浸り、夜になると本邸へ帰ってくる。

 伯爵家の仕事を引き継いでいるのだから、別邸に移動されていたジュード卿の書斎で仕事をしているのかもしれない。
 ジュード卿も別邸に入り浸りで、家にいる間はほぼ本邸に来ることはなかった。

 イザベラも似たような理由だろう。
 そう思うのに、なぜかグレイはそんな理由ではないと感じていた。あの女がそんなに真面目に仕事をしているとは思えない。



 そもそも、自分の夫と女が暮らしていた家に行きたがるものなのか? 
 いったい毎日あの別宅で何をしている?


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