心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
グレイは一瞬遠い目をしたあとに、疲れたようなため息をつく。
まるで自分自身に幻滅しているかのような、どこか苛立ちすら感じるそのため息。
そんな気怠げなグレイを見ても、マリアにはキラキラとしたオーラを纏った物語の中の王子様のように見えていた。
お兄様……素敵……。
ジッと見つめてくる視線に気づいたのか、グレイが横目でマリアを見る。
その色気ある流し目。頭痛で苦しんだ際にかいた汗で、少し湿った黒髪。首と胸元の部分が乱れた薄いシャツ姿。
そんなグレイと目が合っただけで、マリアは心臓を鷲掴みにされたような気がした。
「マリア……」
「あのっ! 私っ! しっ、失礼します!!」
「えっ?」
もう……もう、耐えられない!!
頭の中のパニックと胸の苦しみに限界がきたマリアは、気づけばそう叫んでから走り出していた。
背後からグレイの戸惑った声が聞こえた気がしたが、もう足を止めることができない。これ以上、この場にいるのが耐えられなかった。
ごめんなさい……!
マリアはグレイを振り返ることなく、部屋を飛び出し屋敷の廊下を全速力で走った。