心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
80 俺は変態ではない……はずだ
マリアが飛び出していった扉を見つめ、静まり返った部屋の中でグレイは呆然としていた。
「……はぁ」
小さなため息をつき、握ったままだったグラスをサイドテーブルに戻す。
カラカラに渇いていた喉。汗で少しベタベタしている身体。そして──まだ落ち着きを戻さない鼓動。
ドッ……ドッ……ドッ……
先ほどよりはおさまってきたが、普段に比べるとまだ全然速い。
身体が熱く火照っているのは、頭痛で苦しんでいたからなのか、マリアのせいなのか。
またこのよくわからない動悸が……。
一体なんなんだ。
薄暗い部屋の中、ベッドに座ったままのグレイは今起こったことを思い返す。
自分は久々の激しい頭痛に襲われて、このベッドで悶え苦しんでいたはずだ。
その記憶が最後で、いつあの頭痛が治ったかは思い出せない。
頭痛の苦しみから解放され、意識を戻した時──目の前にはマリアの顔があった。
丸い黄金の瞳が、キラッキラッと小さな光のカケラを散らすように輝きながらグレイを真っ直ぐに見つめている。
「……………………マリア!?」
一瞬思考の停止したグレイは、なんとか声を絞り出すようにマリアの名前を呼んだ。
ドクンッと大きく跳ねた心臓は、急激に鼓動を速めてグレイの全身の体温を上昇させていく。
息が苦しく感じるのは、マリアが身体の上に乗っているからだろうか。
なんだ!? なんでマリアが……。