心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
そこまで考えた時、グレイは自分の腕がマリアの身体を拘束していることに気づいた。
両腕はマリアの背中に回され、抜け出せないようになっている。
!?
グレイは両手を挙げ、マリアの身体から離した。
意識が戻ったばかりということもあり、めずらしく頭の中は混乱している。
すぐに正しい対処法が浮かばないグレイは、ずっと両手を挙げたままという愚行をしていることにも気づいていない。
なんでこんな状態に?
まさか、俺がマリアを抱き寄せたのか?
事情を知っているマリアからの言葉を待っているが、マリアはなぜか微動だにせずグレイを見つめているだけだ。
腕を離したというのに、動くこともない。
だんだんと頭が冴えてくるほど、マリアと密着している部分の感覚もはっきりとしてくる。
「……とりあえず、その……おりてくれるか?」
「……え。……あっ! ごっ、ごめんっ」
背中を軽く叩きながらそう頼むと、マリアはグイッと身体を起き上がらせてグレイから離れた。
マリアと密着していた上半身がやけに涼しく感じる。
もう重みも温かさも感じないというのに、マリアの感触だけは消えずに残っている気がして、グレイはベタッと身体に張りついていたシャツを扇ぎながら起き上がった。
……なんだ?
マリアは離れたというのに、まだ落ち着かない。