心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない

 鼓動は相変わらず速いままだし、なぜか真っ直ぐにマリアの顔を見ることができない。
 胸に感じる変な違和感。その違和感のせいで、今もなおどこか気まずい。

 ひとまず水でも飲もうとグラスに手を伸ばすと、マリアがサッと動いてやってくれた。
 ただそれだけのことなのに、またよくわからない違和感が押し寄せてくる。



 嬉しいと思ってるのか……? 俺は。
 ただ水を入れてもらっただけで?
 ……いや。さすがにそれはないだろう。それだけで喜ぶ貴族がいてたまるか。



 自分の中に芽生えた感情を、自分で否定していく。
 頭と心の感情がバラバラになってしまったみたいに、グレイは自分のことがさっぱりわからなかった。


「……俺は、また頭痛で倒れていたのか?」


 2人とも話さない無言の時間。
 そんな中でもマリアからの視線だけは感じる。
 気まずくなったグレイがそう問いかけると、マリアが少し焦った様子で答えた。


「うん……。あのっ、薬がなくなっていることに気づかなくてごめんなさい」

「マリアが謝ることじゃない」

「でも……」

「それに、もう治ったから大丈夫だ」


 さっきまでズキズキと痛んでいた左側の頭。
 グレイは無意識にその場所を手でグッと押さえた。今は全く痛みを感じない。



 マリアの治癒で直接治してもらったのか……。
 全然記憶にないな。それだけ意識がなくなっていたということか。



 グレイは自分が目覚めた時の状況を思い浮かべる。
 自分の上に乗っているマリアを、抱きしめている自分──。

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