心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない

 マリアは自分のスカートをギュッと握りしめながらそう叫ぶように言い放つと、突然走り出し部屋から出ていった。
 そして、今に至っている。

 正直、グレイはマリアがいなくなったことにホッとしていた。
 落ち着かない鼓動や頭の中。マリアがいなくなってから、だんだんと普段通りに戻ってきている。



 やはり、マリアに近づくとこの症状になるな……。



 いつも冷静で心を乱されることのなかったグレイが、マリアに対してはここまで乱されてしまう。
 しかも困ったことに、乱されているというのに不快感がない。

 それがより一層グレイの中で理解できない状態になっていた。

 幼いグレイが心を乱されたのは、父親が自分達よりも愛人を優先して会いに来なくなった時や、母親が部屋から出ずに暴れるようになった時が最後だ。

 あの時は寂しさや戸惑いに加え、大きな不快感も感じていた。
 そのため、グレイは自身の心を守るために心を捨てたのだ──何にも傷つかなくていいように。



 こんなにも鼓動が速くなるのも、こんなに感情を制御できないのも初めてだ……。



 マリアが長期の視察から戻ってきてからというもの、グレイの感情は乱されてばかりであった。

 感じたことのないマリアに対する緊張感や、さらに倍増してしまったエドワード王子への嫌悪感。
 他人に興味のなかったグレイは、王子を嫌悪している自分にも驚いていた。


「王子か……」


 そうグレイがボソッと呟いた時、部屋をノックされた。
 同時に、レオの声が聞こえてくる。


「グレイ、入っていい?」

「……ああ」

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