心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない

 レオはグレイの両肩を掴み、前後にガクガクと力いっぱい揺すってくる。
 せっかく治った頭痛が再発しそうで、グレイはわりと本気で怒った。


「やめろ!! 変なことはしてない! ただ気づいたら抱きしめてただけだ!!」

「気づいたら……抱きしめてた……?」


 グレイを揺する手をピタッと止めて、レオは衝撃を受けたような顔で震え出した。
 今はもう犯罪者でも見るような目でグレイを見ている。


「……ケ、ケダモノ!!」

「なんでだよ! マリアと抱き合うなんて初めてじゃないだろ!?」

「状況が違いすぎるよ! 無意識にベッドで抱きしめるなんて、変態!」

「変た……!?」


 レオはそう叫ぶなり、スクッと立ち上がった。
 呆然としているグレイを見下ろし、軽蔑した目を向けながらボソッと呟く。


「まさか、グレイがそんなことをするなんて……。ちょっと俺、マリアのとこ行ってくるから」

「お、おい……」


 何か言いかけているグレイの声を聞こえないフリして、レオは部屋から出ていった。
 バタンという扉の閉まる音が、静かな部屋に響く。



 へ、変態……だと?
 


 グレイは大きなショックを受けていた。
 レオにそんな言葉を投げかけられたからではない。
 まさかマリアも自分に対してそう思ったのか、だから部屋から……俺から逃げたのか、と心配になったからである。

 誰にも答えを聞けないまま、グレイはもやもやとした夜を過ごすことになるのだった。
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