心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない

「グレイ様、レオ様。昼食の準備が整いました」

「ああ。ガイル、今の会話は聞いていたか? デザイナーの確保についてだが……」

「すでに確保しております。カタログも預かっておりますので、こちらから決めていただければ本日中には発注できましょう」

「さすがガイル!!」


 レオが歓喜の声を上げながら、ガイルからカタログを受け取った。
 そしてすぐにそれをグレイの机の上に置く。
 グレイは害虫でも見るような視線をカタログに向けたあと、げんなりした声でレオに命令した。


「ドレスはお前が適当に決めておけ」

「ええ!? 無理だよ! 俺、ドレスとかよくわからないし!」

「俺だってわからん」

「でも、副団長に『レオは絶対にドレスを選ぶなよ』って言われてるし……」

「……どれだけ信用されてないんだ、お前は」


 べティーナがどんなドレスを着ようが全く興味はないが、あまりにもセンスのないものを選ばれてもそれはそれで困る。
 しかし、自分も令嬢の喜ぶようなドレスを選べるとは到底思えない。

 悩んだグレイは、ハッと閃いた顔をするとカタログを持ったまま席を立った。


「食堂に行くぞ」


 それだけ言うと、ガイルやレオを置いて執務室から足早に出ていく。

 そして食堂に入るなり、目当ての人物に向かってカタログを放った。
 いきなりのことだったけれど、その人物──マリアのメイドであるエミリーは、しっかりとキャッチしてくれた。

< 615 / 765 >

この作品をシェア

pagetop