心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
「グレイ様、レオ様。昼食の準備が整いました」
「ああ。ガイル、今の会話は聞いていたか? デザイナーの確保についてだが……」
「すでに確保しております。カタログも預かっておりますので、こちらから決めていただければ本日中には発注できましょう」
「さすがガイル!!」
レオが歓喜の声を上げながら、ガイルからカタログを受け取った。
そしてすぐにそれをグレイの机の上に置く。
グレイは害虫でも見るような視線をカタログに向けたあと、げんなりした声でレオに命令した。
「ドレスはお前が適当に決めておけ」
「ええ!? 無理だよ! 俺、ドレスとかよくわからないし!」
「俺だってわからん」
「でも、副団長に『レオは絶対にドレスを選ぶなよ』って言われてるし……」
「……どれだけ信用されてないんだ、お前は」
べティーナがどんなドレスを着ようが全く興味はないが、あまりにもセンスのないものを選ばれてもそれはそれで困る。
しかし、自分も令嬢の喜ぶようなドレスを選べるとは到底思えない。
悩んだグレイは、ハッと閃いた顔をするとカタログを持ったまま席を立った。
「食堂に行くぞ」
それだけ言うと、ガイルやレオを置いて執務室から足早に出ていく。
そして食堂に入るなり、目当ての人物に向かってカタログを放った。
いきなりのことだったけれど、その人物──マリアのメイドであるエミリーは、しっかりとキャッチしてくれた。