心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
「それを後でマリアの部屋に」
「は、はい。あの……こちらは……」
「ドレスのカタログだ」
グレイの返事に、マリアが目を丸くしてグレイを見た。
驚いているからか、今はグレイから目をそらしたりはしないらしい。
少し期待がこもったような瞳を向けてきたマリアは、小さな声で問いかけてきた。
「なんで、ドレスのカタログを?」
「その中からドレスを選んでくれ」
「え……。あの、なんのドレスを?」
マリアは頬を少しだけ赤く染め、可愛らしく戸惑いながら尋ねてくる。
どこか嬉しそうなその様子に、グレイまで少し嬉しくなった。
やはり女はドレスが好きなのだな。こんなに喜ぶとは。
「親交パーティーで俺のパートナーが着るドレスだ」
マリアが嬉しそうにしている本当の理由に気づいていないグレイは、全く悪びれた感情もなく素直に事実を伝えた。
モジモジしていた動きをピタッと止め、マリアの表情が固まる。
カタログを持っているエミリーの顔は真っ青になり、オロオロとマリアに心配そうな視線を送っている。
……ん? なんだ?