心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
「グレイッ!!」
慌てて部屋に入ってくるなり、レオが大声をあげる。
こちらもエミリー同様、顔面蒼白である。
……いや。よく見ればエミリーやレオ以外にも、この部屋にいる使用人がみんな顔を青ざめさせていた。
「ま、まさか、マリアにドレスを……?」
「選んでくれと頼んだが?」
レオが息切れをしながら尋ねてきたので、グレイは少し被せ気味に返事をする。
グレイは、皆がなぜそんなに青ざめているのか全く理解できていなかった。
自分の行動がよくなかったのだと気づいたのは、次にマリアの顔を見た時だった。
「……マリア!?」
うつむいて涙を流しているマリア。
すぐ隣にいたエミリーが、マリアの背中に手を添えて何か声をかけている。
マリアは何も答えずに自分の涙を拭っていた。
「どうしたんだ? なんで泣いて……」
「わ、私……へ、部屋に……もど……戻ります……!」
なんとか声を絞り出すようにそう言うと、マリアは立ち上がって食堂から出ていった。
グレイがその後を追いかけようとしたが、なぜか目の前には怒った顔のレオが、食堂の入口には無表情ながら呆れたオーラを放つガイルが立っている。
そして食堂に残った使用人達からの、なんとも言えない負のオーラ。
「な、なんだ……?」
誰もが黙っているが、全員から責められている気配を感じる。
原因はわからないが、グレイは自分がマリアを泣かせてしまった張本人であるということだけは理解できた。