心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
「は、はい」
グレイが扉を開ける前に、レオとエミリーが椅子から立ち上がった。
そしてマリアに何やら目で合図を送ると、扉に向かって歩き出す。
マリアは、2人が『がんばれ』と言ったような気がした。
ガチャ
「……! お前達もいたのか」
「ああ。でも、もう出ていくところだから」
少し驚いた様子のグレイに、レオがニコッとわざとらしい笑顔を貼りつけて答えた。
こちらも、何やらグレイに目で合図を送ったように見える。
グレイの顔が引きつったように歪んだのを、マリアはドキドキする胸を押さえながら見ていた。
バタン
「…………」
「…………」
レオとエミリーが出ていった後の、無言の時間。
まだ何も言われていないというのに、マリアは気まずさに耐えきれず無性に逃げ出したい衝動を我慢していた。
さっき泣いちゃったことだよね?
どうしよう……なんて答えればいいんだろう?
うつむいたままそう考えていると、入口に立っていたグレイがいつの間にか目の前に立っていることに気づいた。
すぐ近くにグレイがいる気配を感じバッと顔を上げると、綺麗な碧い瞳と目が合う。
その瞬間、グレイの指がマリアの目元を優しく撫でた。
「…………っ」
ドクンッと心臓が大きく跳ねて、息が一瞬止まる。
マリアは瞬きもできずに、ただただグレイの碧い瞳を見つめ返した。
「涙の跡が残ってるな。……なんで泣いた?」
「…………」
「……俺のせいか?」
「…………」