心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
「エミリー。私、お腹すいたから食堂に戻るわ」
「わ、わかりました! すぐに伝えてきます!」
グレイの背中を押しながらそう声をかけると、エミリーは駆け足で食堂のほうへ急いだ。
マリアも後に続こうと、グレイから離れて「では失礼します」とだけ声をかけて歩き出す。
その場にはわけわからない様子のグレイとレオだけが残された。
「グレイ、何があったの?」
「レオ。ヤキモチとはなんだ?」
「は? ……本気で言ってるの?」
マリアの後ろから、そんな会話が聞こえてくる。
至極呆れたようなレオの声を聞いて、マリアは吹き出しそうになるのを我慢しながら食堂へ向かった。
*
その一週間後。マリアはエドワード王子に呼ばれ、王宮に来ていた。
「丸1日空けてくるように……って、一体なんの用なんだろう?」
「さあ。パーティーの打ち合わせとか?」
護衛騎士のレオと並び、王宮の中を進んでいく。
案内されて向かっている先は、王子の部屋でもいつもお茶をする部屋でもないようだ。
「あっ! もしかして、マリアに贈るドレスの件とか? 届いてないよね?」
「うん。でも、それなら家に届くんじゃないの? 私が取りに来るものなの?」
「確かに……。令嬢に直接ドレスを取りに来させるなんて、さすがのグレイでもしないよなぁ」
グレイ、という名を聞いて、マリアがピクッと反応する。
そんなマリアを見て、レオが少し迷った様子でコソコソと話し出した。