心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
マリアは、何も言わないエドワード王子の背中をポンポンと軽く叩いてみる。
母親が子どもを寝かしつけるような行為をされて、王子が気まずそうにボソッと呟く。
「……やめろ」
「だって、慰めてほしいのかなって思って」
「…………」
「どうしたの?」
マリアがポンポンと叩く手を止めずに問いかけると、王子はマリアの肩から顔を離し、ジッとマリアの顔を見つめた。
真剣な表情だが、マリアにはまるで王子が泣きそうになっているように見えた。
「……さっき、マリアが倒れた時……驚いた」
「えっ?」
「お前はいつも元気だったし、あんな……突然気を失ったから、お前に……何かあったのかと……」
「…………」
エドワード王子はフイッとマリアから視線を外し、ボソボソと話し出す。
その弱々しい声に、王子が本当に心配をしていたことがよく伝わってくる。
私の心配をして、落ち込んでいたの?
「……ごめんね。ただ疲れただけだから、大丈夫だよ」
「……ああ」
そう返事をするなり、王子はまたマリアを抱きしめた。
まるで無事でいることを確かめているかのような抱擁に、マリアは大丈夫だよという意味も込めて背中を優しくさする。
その時──。
ガチャ!!
部屋の扉が開かれ、見知った人物が立っているのがマリアの目に入る。