心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない

「……お兄様!?」

「マリア……」


 入口に立っていたのは、グレイだった。
 その後ろにはレオもいる。なぜ王宮にグレイがいるのか、とマリアの頭は真っ白だ。
 マリアの反応からグレイが来たことを察したエドワード王子は、マリアを抱きしめたまま顔だけ動かしてグレイを見た。


「なぜヴィリアー伯爵がここにいる?」

「仕事でたまたま来ていたんです。先程、こちらの使用人からマリアが倒れたことを聞きまして……エドワード殿下、そろそろマリアを離してくれますか?」

「えっ……あっ!」


 王子ではなく、マリアが先に反応した。
 突然のグレイの登場に驚き、抱きしめられている状態を忘れてしまっていたのだ。

 王子は一瞬抱きしめる力を強めたが、マリアが手で押し返そうとしたことに気づくと不満そうに離れた。
 そして、グレイに向かってキッパリと言い放つ。


「マリアは今夜ここに泊める」

「必要ありません。家に連れて帰ります」


 睨み合うエドワード王子とグレイの間に、バチバチッと火花が見えたような気がした。
 マリアとレオは2人の会話に入れず、ただハラハラと状況を見守ることしかできない。


「マリア」

「はいっ!?」


 グレイがジッとマリアに視線を送ったので、マリアは慌てて返事をした。
 こんな状況でも、グレイと目が合っただけでドキッと反応した素直な心臓に、マリアは自分で呆れてしまう。

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