心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
「家に帰るか? ここに残るのか?」
「…………」
「マリア! 今夜は泊まっていけ!」
グレイとマリアの会話に、エドワード王子が入ってくる。
先ほどまでは元気のなかった王子だが、グレイが来たことによりいつもの調子を取り戻したらしい。
普段の強気な王子の姿に、マリアは内心ホッとした。
エドワード様、心配かけてごめんね。
……でも、私は……。
「家に帰りたい」
「!」
正直に気持ちを言うと、王子はショックを受けた顔で黙り込んだ。
自分のせいでマリアを疲れさせたことに対する罪悪感があるのか、これ以上の無理強いは諦めたらしい。
王子が反発しないのを確認するなり、グレイはベッドサイドに近寄った。
「行くぞ」
「……えっ」
ふわっと、グレイがマリアを持ち上げる。
一気にグレイの顔が近くなり、マリアはボッと顔を赤くした。
「では、殿下。失礼いたします」
「…………」
グレイの言葉に、エドワード王子は答えない。
下を向いたままこちらを見ない王子の背中に、マリアは慌てて声をかけた。
「エドワード様……ごめんね」
「…………」
王子はマリアの言葉にも答えず、グレイ達が部屋を出るまで振り返ることはなかった。