心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない

 どこか寂しそうな王子の後ろ姿に罪悪感を覚えつつも、マリアはグレイに抱き上げられていることに緊張していた。



 昔はよく抱っこしてもらってたけど……こんな抱えられ方は初めて……!



 幼い頃は、グレイの腕に座る形の縦抱っこが多かった。
 しかし、今は横向きに抱えられていて、すっぽり収まっている状態がやけに恥ずかしい。

 通路ですれ違う王宮の使用人達と目を合わせたくなかったので、マリアは顔をグレイのほうに向けていた。
 それがよりグレイとの距離の近さを感じさせる。


「……まさか、王宮の中でグレイに会うとは思ってなかったよ」


 グレイの少し後ろを歩くレオが、小さな声で話しかけている。
 

「俺だって、突然マリアが倒れたと聞かされて驚いた。お前達も王宮に来ていたんだな」

「ああ。エドワード殿下に頼まれて、グレイに伝達を送ろうとしてたところだったんだよ。その前に偶然会えてよかった」

「……伝達って、マリアを王宮に泊めるってやつか?」

「……えっと……」


 ピタッと足を止めて振り返ったグレイの表情を見て、レオが答えを濁す。
 どこかピリピリとした空気を感じ取ったマリアが、心配そうな顔でレオを見る。
 ダラダラと冷や汗をかいたレオの顔は、真っ青になっていた。


「レオ。お前は、マリアをここに泊めようとしたのか?」

「いや。俺だって最初は反対したんだけど、エドワード殿下が──」

「はぁ……」


 レオの言葉を遮って、グレイが大きなため息をつく。
 しかし、それは怒りや呆れのため息ではないことにマリアとレオはすぐに気づいた。まるで安心してホッとした時に出るような、そんな優しいため息だった。



 お兄様……?


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