心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
今まで、マリアが研究室で本物の力を使ったことはなかった。
実験や研究のためならあるが、研究員の治癒のために使ったのは初めてである。
理由は、あまり簡単に使うなとグレイから止められていたこと。
それから、マリア自身ができるだけ彼らには使いたくなかったからだ。
「だって、聖女の力で治したらみんなずーーっと働き続けるでしょう? ちゃんと限界を感じて休んでほしかったから、今まで使わなかったの。でも……今回は、みんな本当に倒れるまで休まなそうだったから……」
「マリア様……」
少し照れくさそうに話す愛らしいマリアを見て、研究員達がうっとりとした表情を浮かべている。
身体だけでなく心まで癒された彼らは、おそらく徹夜で作業をすることだろう。
身体を回復させた自分の行動が正しかったのか心配になりながらも、マリアは別れの挨拶をして研究室から出た。
「お疲れ様、マリア。体調は大丈夫?」
「大丈夫だよ。レオ」
研究室の前で待っていたレオが、マリアの顔色を確認しながら労りの声をかけてくる。
前回倒れてしまってからというもの、レオやエミリーの過保護が増してしまったとマリアは感じていた。
「今日はおそらくエドワード殿下とは会えないと思う。このまま家に帰ろう」
「なんだか王宮がバタバタしているようだけど、何かあったの?」
マリアの質問に、レオは階段途中で足を止めて周りをキョロキョロと見回した。そしてマリアに顔を近づけるなり、耳元で囁く。
「それが、昨夜ガブール国の王太子が先に王宮に来ちゃったみたいなんだ」
「先に……って、どういう意味?」
「王族用の馬車や荷物より先に、数人の騎士と馬に乗って来ちゃったらしい」
「ええっ!?」