心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
しかし、その瞬間レオに腕を強く引っ張られ、マリアはレオの腕の中に匿われた。
真っ暗な視界の中、誰かが「うわっ」と声を上げたのが聞こえる。
ぶつかった音は聞こえなかったので、レオとその人物もなんとか接触せずにすんだらしい。
……大丈夫かな?
そろ〜と目を開けたマリアは、自分とぶつかりそうになった人物を見て黄金の瞳を輝かせた。
褐色の肌……!
白い肌が多いこの国で、なかなか見ることのない褐色の肌。銀色で襟足の長い髪の毛。夜空のようなネイビーブルーの瞳。
騎士の格好をした筋肉質な身体のその男性は、焦りながら謝罪の言葉を口にした。
「ゴメンなさい! 大丈夫ですカ?」
「はい……大丈夫です」
この人、もしかしてガブール国の騎士?
ガブール国民は、皆肌が褐色で銀色の髪をしている──と聞いたのを、マリアは思い出していた。
今話した言葉も、どこかぎこちない。慣れてない他国の言葉を話したような訛りがあった。
「部屋に戻りたいのに、道に迷ってマシタ。私はガブール国から来た騎士のハリムです」
「そうだったんですね。私はマリアです。レオ、お部屋まで案内してあげて」
「ガブール国の方はきっとあちらの建物の……」
案内を開始しようとした時、ハリムの異様な空気を感じ取ったレオが足を止めた。
先ほどまでは普通だったハリムの表情が、驚きの様子で固まっている。その視線の先は、ある一点から動かない。
……マリアの黄金の瞳から。