心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない

 しかし、その瞬間レオに腕を強く引っ張られ、マリアはレオの腕の中に匿われた。
 真っ暗な視界の中、誰かが「うわっ」と声を上げたのが聞こえる。

 ぶつかった音は聞こえなかったので、レオとその人物もなんとか接触せずにすんだらしい。



 ……大丈夫かな?



 そろ〜と目を開けたマリアは、自分とぶつかりそうになった人物を見て黄金の瞳を輝かせた。



 褐色の肌……!



 白い肌が多いこの国で、なかなか見ることのない褐色の肌。銀色で襟足の長い髪の毛。夜空のようなネイビーブルーの瞳。
 騎士の格好をした筋肉質な身体のその男性は、焦りながら謝罪の言葉を口にした。


「ゴメンなさい! 大丈夫ですカ?」

「はい……大丈夫です」


 
 この人、もしかしてガブール国の騎士?



 ガブール国民は、皆肌が褐色で銀色の髪をしている──と聞いたのを、マリアは思い出していた。
 今話した言葉も、どこかぎこちない。慣れてない他国の言葉を話したような訛りがあった。


「部屋に戻りたいのに、道に迷ってマシタ。私はガブール国から来た騎士のハリムです」

「そうだったんですね。私はマリアです。レオ、お部屋まで案内してあげて」

「ガブール国の方はきっとあちらの建物の……」


 案内を開始しようとした時、ハリムの異様な空気を感じ取ったレオが足を止めた。
 先ほどまでは普通だったハリムの表情が、驚きの様子で固まっている。その視線の先は、ある一点から動かない。
 ……マリアの黄金の瞳から。

< 649 / 765 >

この作品をシェア

pagetop