心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
「なんでもないわ。迷子って聞いたので、レオに案内をしてもらおうとしていたところだったの」
「そうだったのですね。お客様を迷子にしてしまったのは、担当の私の責任です。ご迷惑をおかけして……」
「私は大丈夫よ。それより、彼を早くお部屋に案内してあげて」
「はっ、はい! すみませんでした! 失礼します!」
王宮の騎士は、やけに焦った様子でバタバタと離れていった。
一緒に連れられたハリムは通路の角を曲がるまでずっとマリアを見ていて、笑顔で手を振っていた。
まるで嵐の過ぎ去ったあとのように、マリアとレオは呆然とその場に立ち尽くしている。
すごく人懐っこい人だったなぁ。
なんだか変なオーラもあったし……。
「マリア、大丈夫? 強く引っ張ってごめんね」
レオが不安そうにマリアの腕に触れた。
咄嗟のことだったので、力強く引っ張ってしまったことを気にしているらしい。
「大丈夫だよ。ありがとう、レオ」
聖女の力で、身体にできた傷や痛みはすぐに治る。
それを改めて伝えると、レオは心底安心したようだった。
そして、さっき騎士達が向かった先に視線を送り、疲れた声でボソッと呟く。
「それにしても、ガブール国の騎士……ハリムだっけ? 変わった人だったね」
「うん……。ガブール国の人って、みんなあんな感じなのかな?」
「どうだろう? 相手が聖女だって知ったのに慌てないなんて、めずらしいなぁとは思ったけど」
レオの言葉を聞いて、確かにとマリアは思った。
実際に、さっき会った王宮の騎士はマリアを見てやけに焦って緊張している様子だったのを思い出す。