心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
86 変な騎士と王子への返事
大量に治癒の薬が必要となり、マリアは毎日王宮の研究室へ通った。
親交パーティーに参加するための来賓も増え、エドワード王子はとても忙しいらしくずっと会えていない。その代わり──。
「聖女様。今日モお疲れサマ」
「ハリム。また部屋を抜け出してきたの?」
ガブール国の騎士、ハリムが毎日地下へ続く階段に立っているのだ。
特に何か話をするでもなく、マリアと挨拶を交わすためだけに来ているのだという。
レオはそんな自由な行動をしているハリムを少し警戒していたが、マリアにはどうしてもハリムを警戒する気が起きなかった。
背が高く体格の良いハリムだが、いつも笑顔で犬のように懐いてくる姿はどうしてもレオに重なって見えてしまうからである。
レオもハリムも、まるで大型犬みたいなんだよね。……まぁそんなこと本人達には言えないけど。
「聖女様に一目ダケでも会いたいンダ」
「ふふっ。ありがとう」
少しカタコトになる時もあるが、ハリムはこの国の言葉を上手に話している。
ここに来るまでの長い道中で、必死に勉強したと言っていた。
ハリムが話しかけてくる間、レオは黙ったままだがいつもよりマリアの近くに寄っている。
警戒しているのがバレバレな気もするが、ハリムは全く気にしていないようだ。
そんなに警戒しなくてもいいと思うんだけど……。
「じゃあ、また……」
その日もそんな軽い挨拶だけで終わりになるはずだったが、マリアはふとハリムの不自然な様子に気づいた。
やけに左腕を隠しているように見える。
「ハリム。左腕、どうかしたの?」
「え? あーー、なんでもナイヨ」
「……ちょっと見せて」