心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
キョトンとした顔でマリアが見上げると、王子は頬を少し赤く染めた。
そしてゴホッと一度喉を整えたあとに、マリアにしか聞こえないくらいの小声でボソボソと話し出す。
「その、前に話したガブール国のアドルフォ王太子なんだが……」
「大の女好きって言ってた人?」
「バ、バカッ! 今はどこにガブール国の人がいるかわからないんだぞ。こんな場所で言うな」
ギョッと驚いたエドワード王子は、マリアの口を手で覆いながら周りをキョロキョロと警戒している。
マリアはすぐに「ごめんなさい」と謝ったが、王子が口を覆っていたため「モゴモゴ」とよくわからない言語になってしまっていた。
「ふぅ……気をつけろよ。で、その王太子なんだが、想像以上に面倒なヤツだというのがわかった」
「どういうこと?」
「あいつ……騎士を連れて先に王宮にやって来たんだが、俺達を騙していたんだ」
「えっ!?」
エドワード様こそ、王太子をあいつ呼ばわりして大丈夫? という言葉を飲み込んで、マリアは話の続きを聞くことにした。
王子を騙していたというのはどういうことなのか、好奇心のほうが勝ってしまったからだ。
「騙したって、何を?」
「途中で騎士と服を交換したらしく、王太子であることを隠して騎士のフリして来たんだ」
「えっ? でも、その中に王太子がいたって……」
「だから、その服を交換した騎士が王太子の身代わりにさせられてたんだ。数日後にガブール国からの使者を乗せた馬車が到着して、発覚したんだよ。ちょっとしたイタズラですよ〜なんて言って、笑って誤魔化しやがった」
「えええ〜〜……」