心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない

 苛立ちを隠せていない王子の話を聞いて、マリアも完全に呆れ顔だ。
 まさか一国の王太子が、初めて訪れた友好国でそんな悪ふざけをするなんて信じられない。
 この件だけで、ガブール国の王太子が変わり者だというのがよくわかる。


「特に被害はないし、陛下はおもしろい王太子だ! なんて言って全くお怒りではないけどな。俺は騙されて腹立ったが」

「まぁ、被害がないなら……」

「ただ、ガブール国の騎士だと思って接していた使用人やこの国の騎士達は、事実を知った後にみんな真っ青になっていたがな」

「…………」


 確かに、騎士と思って接していた相手が王太子だったなんて知ったなら、みんな驚いてそれまでの態度を心配することだろう──とマリアは苦笑いした。
 失礼な態度まではしていないものの、同じ騎士として気軽に接していた者は少なくないはずである。



 …………ん? 騎士の姿に変装してた?



 マリアの頭の中に、1人の騎士の姿が浮かぶ。
 褐色肌で、銀髪の長い髪に夜空のような瞳の色。
 レオが「騎士っぽくない」と言っていた、明るくて人懐っこいハリムの姿が──。


「まさか……」

「ん? どうした?」

「あっ、いえ。なんでも……」


 話を誤魔化したマリアを訝しげに見ながらも、エドワード王子は話を続けた。


「それで、ここからが本題なんだが……その王太子はマリアを狙っているだろ? そんなヤツが、ただ俺のパートナーという理由だけで引くような男ではない、と思うんだ」

「……? それで?」

「そ、それで、だな。この親交パーティーの間は、その……マリアは俺の婚約者だということにするから!」

「えっ」

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