心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない

 想像するだけで胸が苦しくて、マリアはそんな状態に自分が耐えられるのかと本気で心配になった。
 そして、それと同時にエドワード王子の強さに感心してしまう。
 ずっと前からマリアの兄へ対する恋心を知っていたという王子は、どんな気持ちだったというのか──。


「はい! できました! マリア様、髪に引っかかってるとか痛みとかはありませんか?」

「大丈夫……って、うわあ……! 綺麗……!」


 鏡を見たマリアは、自分の頭上で輝くティアラを見てそう呟いた。
 ティアラに対する褒め言葉だったのだが、エミリーはマリア自身に対する感想だと思ったらしい。
 うんうん頷きながら、「本当にマリア様は女神様のようです!」なんて言っている。

 コンコンコン


「マリア。俺だ。準備はできたか?」


 扉越しに聞こえたグレイの声に、マリアの心臓がドキッと跳ねる。


「で、できたよ」


 マリアの返事を聞くなり、グレイが扉を開けた。
 その後ろにはレオも立っている。
 

「うわあ〜〜〜〜!! マリア!! めちゃくちゃ綺麗!! すごいな!」

「…………」


 レオが目を輝かせながらそう言ってくれているが、マリアは返事ができなかった。
 自分の目の前に立っているグレイの姿に、心を奪われていたからだ。



 な……何これ……お兄様、素敵すぎる……っ!!


 
 普段は長めの前髪で目元が隠れていることが多いグレイが、今日はしっかりと髪をセットしている。
 綺麗な碧い瞳の目力が全面に出ていて、とても直視できそうにない。

 なぜか無性に胸がぎゅーーっと締めつけられて、マリアは胸を押さえながら「ううっ」と苦しそうな声を出してしまった。

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