心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
眉を寄せて、ムスッとしているグレイ。
おそらく自分だけがマリアの状態を理解していないことに不満を抱いているのだろう。
それをわかってはいるが、マリアはなんて答えればいいのか言葉に詰まった。
お兄様があまりにも素敵だったから、胸が苦しくなった……って言っていいのかな?
そ、それはあまりにも正直すぎるかな?
初めての恋に、マリアはどう行動するのが正しいのかわからない。
何冊か恋愛小説を読んではみたが、恋の駆け引きというものは自分には無理──という結論が出ただけであった。
んんーー……よくわかんないけど、もう正直に言っちゃえ!
「あ、あのね、正装姿のお兄様が素敵でドキドキしちゃって、胸が苦しくなっちゃったの」
「…………は?」
グレイがポカンとした顔で呟く。
本気で理解できていない顔だ。
「だって、いつもと違うから慣れなくて……」
「……素敵だと思ったから、胸が苦しくなったのか?」
「う、うん」
「……それは病気ではないんだな?」
「違うよ」
これは恋だから──と言うのはやめておいた。
グレイはふむ……と少し考えこんだあと、妙に納得した顔でマリアに向き直った。