心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
88 波乱のパーティーの始まり
王宮に到着するなり、レオは騎士団のところへ、グレイはパーティー会場へ、マリアはエドワード王子のいる部屋へと案内された。
王子にエスコートしてもらうため、会場には入らずにそのまま来たわけなのだが──マリアが部屋に入るなり、王子は片手で自分の顔を覆った状態で黙り込んでしまった。
「……エドワード様? 体調でも悪いの?」
「……いや。別に」
王子の近くに立っている執事に困った視線を送ると、執事は大丈夫ですよというかのようにニッコリと微笑んだ。
「殿下。準備ができましたら、アドルフォ王太子に挨拶に伺わなければなりません」
「わかっている! ……少しだけ待て」
顔を覆ったまま執事にピシッと言う王子。
なぜ王子は顔を隠しているのか、マリアにはわからない。
グレイに比べてわかりやすいタイプのエドワード王子だが、こうしてたまに理解不能な言動をすることがある。
「先に挨拶に伺うの?」
マリアの質問に、執事が答えてくれる。
「はい。この国では、パーティー会場での挨拶が主流なのですが、ガブール国ではパーティーは楽しむもの……という考えらしく、堅苦しい挨拶は事前に済ませてしまうそうです」
「そうなんだ」
そういえば、今回の親交パーティーはガブール国のやり方に合わせてるってレオが言っていたっけ。
そのせいで、グレイもパートナーを用意しなければならなくなった──ということを考えると、マリアは複雑な気持ちになった。
今頃はもうパートナーの令嬢と一緒にいるのかと想像するだけで、胸がひどく痛む。