心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
「たしかに見たけど、髪とか飾りとかその時と今とじゃ違うだろ!?」
「そうだけど……それ、そんなに変わる?」
「…………はぁ。もうやだ、コイツ」
最後には半泣き状態になったエドワード王子が、プイッとマリアから顔をそらす。
同情の目で執事が見守っていることに、王子もマリアも気づいていない。
「で、では、アドルフォ王太子に挨拶に伺いますか」
この空気に耐えられなくなった執事がそう切り出すと、王子がすぐに「そうだな」と返事をした。空気を重く感じていたのは王子も同じだったらしい。
特に何も感じていなかったマリアは、黙って2人について行く。
そういえば噂の王太子に会うのは初めてだわ。
エドワード様は、変わり者って言ってたけど……どんな人なんだろう?
ふと頭に大型犬のようなハリムの姿が浮かぶ。
ガブール国民特有の褐色肌に綺麗な銀髪、逞しい身体。そして夜空のような瞳の色──。
コンコンコン
ハッ! いつの間にか王太子の部屋の前に……!
考え事をしている間に到着していたらしい。しかもノックまで終えている。
マリアはピシッと背筋を伸ばして美しく見える腕の形を作った。
本当ならば、移動中もその姿勢でいなければいけないのだが、レディとしてのマナーを学ぶより聖女として国の為に働いてきたマリアには、まだ完全に身についていないのだ。
失礼のないようにしなくちゃ! 聖女らしく!