心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
「へぇ〜。そういえばそうだったネ。残念だ」
「…………っ。よろしくお願いしますよ」
「はいはい」
もっと何か言いたそうなエドワード王子と、軽く流しているアドルフォ王太子。
軽いようで重い空気を感じながら、マリアは黙ったまま2人を見つめることしかできなかった。
あれ? 挨拶に来たはずなのに、こんな感じでいいの?
もっと話がしたいというアドルフォ王太子の誘いを断り、マリアとエドワード王子は王太子の部屋から出た。
エドワード王子から溢れ出る不穏なオーラに気づかないフリをして歩いていると、部屋から離れたところで王子が口を開く。
「マリア! あの王太子には気をつけろって言っただろ!?」
「だって、今さっきまであの人が王太子だなんて知らなかったんだもん」
「本当に何もされていないんだな!? 手を握られたり、部屋に連れていかれそうになったり……」
「ないよ。会う時にはいつもレオがいたし」
レオもいた──という言葉を聞いて、王子の表情が少し緩む。
どうやら2人きりで会っていたと勘違いしていたらしい。
「ああ……そうか。レオが一緒だったのか」
「うん。だから大丈夫! それより、早く会場に行こう」
「ああ。そうだな。人の多い場所のほうが安全な気がする」
話をすり替えたくて会場へと促してみたのだが、王子はあっさりと了承した。王太子にあまり近づきたくないという理由だとしても、早めに会場に行けることにマリアは安堵した。
エドワード王子が王太子のことを気にかけているのと同様、マリアもずっとグレイとパートナーの令嬢のことが気になっていたのである。
見たくない……けど、気になる!
2人が仲良くしていないかと不安だが、もし会話もしていない様子なら安心できる。複雑な感情を抱えながら、マリアは足早に会場へ向かった。