心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
さっき一度チラッと見ただけだが、マリアはその顔をすっかり覚えてしまっていた。
グレイの腕に抱きついていた、あの姿は忘れられない。
そんなマリアの戸惑いには気づいていないフランシーヌは、振り向きざまに少し声を荒げた。
マリアとの会話を邪魔されて怒っているようだ。
「ご挨拶もなしに突然話に入ってくるなんて、失礼ですわよ」
「あら。ごめんなさい。フランシーヌ様だったのですね。私は本日マリア様の兄、グレイ様のパートナーを務めているベティーナと申します」
ベティーナと名乗った令嬢は、ドレスを持ち可憐にお辞儀をした。
氷のようなフランシーヌの威圧感など、まったく気にしていないかのような余裕さだ。
彼女を睨みつけながら、フランシーヌは低く冷静な声で問いかける。
「それで、なんの用ですの?」
「マリア様とエドワード殿下には早く結婚していただきたいというお話をしに参りましたの」
「……なんですって?」
ニコニコしているべティーナと、ギロリと目を光らせているフランシーヌ。
冷たい空気が2人の間を漂っている。
いまだ黙ったままのマリアは、すぐにこの場から逃げたいと怯えながら2人を交互に見つめていた。