心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
アドルフォ王太子は眉を下げて至極残念そうな声を出した。
「そっか。まるでまだ婚約してないような話に聞こえたから、期待して思わず話しかけちゃったヨ」
「期待?」
「ウン。聖女様が王子と婚約してなかったら、僕が聖女様を王妃に迎えたかったからサ」
「!」
アドルフォ王太子の言葉にフランシーヌがピクッと反応する。
遠回しの申し出を受けたマリアは、動揺することなく笑ってそれを聞き流した。
アドルフォ王太子が女好きであることを事前に聞いていたため、ただふざけて言っているのだと思ったからだ。
うーーん。まさか本当にこんなこと言ってくるなんて。
エドワード様と婚約してるってことにしておいて良かった…………あっ!
そこまで考えて、マリアは自分の前にエドワード王子の婚約者の座を狙っている令嬢がいることを思い出した。
慌ててフランシーヌを見たけれど、彼女はマリアではなくアドルフォ王太子を凝視していた。
睨まれていないことにホッと安心しつつ、何かを観察するような鋭い目に違和感を覚える。
良かった……怒ってなさそう。
でも、なんであんなにアドルフォ王太子のことを見てるんだろう?