心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない

 不思議そうに首を傾げるマリアの横で、同じようにフランシーヌの様子を見ていたべティーナがフッと鼻で笑った。
 まるでフランシーヌの考えがわかったかのような、得意げな顔をしている。


「?」


 そんなべティーナに気を取られていると、突然大きな声で名前を呼ばれた。


「マリアッ」

「! エドワード様!」


 マリアが振り向いたときには、すぐ後ろにエドワード王子が立っていた。
 走ってきたのかゼェゼェと苦しそうに息をはずませ、マリアの両肩に手を載せている。

 眉の吊り上がっているエドワード王子を見て、アドルフォ王太子はニコッと笑った。


「ヤァ、エドワード様。そんなに慌ててどうしました?」

「……いえ。別に。俺のパートナーを迎えに来ただけですよ」


〝俺のパートナー〟という部分だけやけに強調しながら言った王子を、フランシーヌが複雑そうな表情で見つめている。



 なんでだろう……さっきのフランシーヌ様とべティーナ様の時みたいに、ちょっとピリピリした空気になってる気が…………あっ。



 そんな不安を覚えたマリアの目に、こちらに向かって歩いてくるグレイの姿が目に入った。
 すでに一度見たとはいえ、まだ見慣れない正装姿のグレイに再度胸が高鳴る。

 その瞬間、この少し気まずい空気や気難しい令嬢2人のことは、マリアの頭から綺麗さっぱり消え去った。
 今はただ、だんだんと自分に近づいてくるグレイを静かに見つめているだけだ。

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