心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない

91 憂鬱なグレイ


 パーティー会場のシャンデリアを見上げながら、グレイは「はぁ……」と大きなため息をついた。

 仕事の話で盛り上がっている貴族男性たちも、ドレスや宝石の自慢をしているご婦人たちも、めずらしいガブール人たちも、何もかも興味がない。

 ここに到着してから、グレイはずっと腕を組んで壁に寄りかかっている。



 早く帰りたい。……マリアを置いては帰れないが。



 グレイは明るく賑やかな場が苦手だ。
 笑顔の貴族たちを見ても何がそんなに楽しいのかと理解できないし、ジロジロと見てくる令嬢たちの視線は鬱陶しいし、マリアの隣で嬉しそうにしているエドワード王子を見ると無性に腹立たしい。
 それに──。


「グレイ様。私たちも踊りませんかぁ?」


 グレイはすぐ隣に立っているピンク髪の令嬢を冷めた目で見下ろした。
 
 会場で会ってからずっとグレイの腕にまとわりついているこの令嬢。
 本当ならすぐにでも振り解いてやりたいが、それだけはしちゃダメだとガイルとレオがしつこく言っていたため我慢している。



 はぁ……本当に面倒だ。
 この女、なんという名前だったか……。



 どんなに待ってもダンスに誘ってこないことに痺れを切らしたのか、ピンク髪の令嬢は上目遣いに見つめては甘い声で誘ってくる。
 グレイは吐き気を(もよお)したがなんとか耐えた。

 ねっとりとした視線も、わざとらしく作られたような高い声も、語尾を伸ばした話し方も、そのどれもが気持ち悪い。
< 689 / 765 >

この作品をシェア

pagetop