心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない

「足を怪我しているから踊れません。他の男性とどうぞ」

「えっ……!?」


 グレイがあからさまな嘘をつくと、その令嬢は一瞬だけ表情を歪めた。


「け、怪我って。さっき普通に歩いていらっしゃいましたよねぇ?」

「歩くことはできますが、踊ることはできません」

「でも……少しくらいは……」

「申し訳ございません」


 まったく取り合おうとしないグレイの様子を見て、ピンク髪の令嬢は黙った。
 最初こそ納得できないような顔をしていたものの、よく考えたら〝踊ってもらえない可哀想な令嬢〟と思われるよりはマシだと判断したのだろう。


「わかりましたぁ。怪我しているならダンスは無理ですわね。私のことは気になさらないでください〜」


 と、やけに大きな声で言い訳がましいことを言うなり、カツカツとヒールの音を響かせながらダンスホールに向かっていった。



 やっと離れたか。ったく、なんて面倒な女だ。


 
 違う男性と踊るつもりなのか、どこか違う場所へ向かったのか、グレイにはどうでも良かった。
 彼女を目で追うことなく、グレイは会場のどこかにいるであろうマリアを探した。



 どこだ?



 どうせあの生意気王子の隣にいるだろう。
 そんなところを見ても苛立つだけだ。
 そう頭ではわかっていても、マリアの姿が見えないと気になってしまう。
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