心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
ここから見える範囲にはいないことがわかり、グレイは壁から離れゆっくりとホール内を歩いた。
意外にも早くマリアを発見できたのは、周りをたくさんの令嬢に囲われて目立っていたからだろう。
美しい聖女がただ注目されているのだと思ったグレイは、マリアの近くにいる人物たちを見て目を細めた。
「……あ?」
マリアの前に立っている2人の令嬢。
その令嬢が、さっきまで自分と一緒にいたピンク髪の女性と、フランシーヌ公爵令嬢だったからである。
なんであの2人がマリアと話しているんだ?
あまり令嬢の顔と名前を覚えないグレイだが、フランシーヌのことだけはよく覚えていた。
エドワード王子の筆頭婚約者候補だからだ。
これまでに何度、彼女と王子の婚約を王宮に勧めたかわからない。
マリアを諦めない王子がその話を進めることはなく、グレイはいつも苛立っていた。
そして、マリアの背後に立つ男。
褐色肌で、少し長い銀色の髪を一つに縛っている。
他のガブール人よりも派手な装いをしているため、きっとガブール国の王太子だろう。
大の女好きで注意すべき相手だと聞かされていた王太子が、まさに今マリアのすぐ近くにいるのだ。
「マリア……!」
なぜあの男がマリアの近くに!?
生意気王子は何してやがる!
グレイが駆け出した瞬間、金髪の青年が血相を変えてその場に向かって走っているのが目に入った。
今頃来たのかと舌打ちしそうになりながらも、グレイは足を止める。
本当はすぐにでもマリアのところへ行きたかったが、王太子の相手はエドワード王子に任せたほうがいいと判断したからだ。