心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない


 ……あいつが噂のアドルフォ王太子か。
 マリアは生意気王子の婚約者だと嘘を伝えているはずだが、あの顔を見る限りまだマリアを狙ってるな。



 文句を言っているであろうエドワード王子に笑顔で返しているものの、その目はマリアを常に意識しているように見える。
 イライラしながらグレイがその場に歩を進めると、マリアと目が合った。

 わかりやすいくらいにパァッと顔を輝かせたマリアを見て、苛立っていたはずのグレイの心も浄化されたように軽くなる。
 これも聖女の力なのだろうか、とグレイはずっと不思議に思っていた。


「お兄様っ」


 険悪な雰囲気の中発せられた嬉しそうなマリアの声に、その場にいた全員がグレイを振り返った。
 エドワード王子はわかりやすいくらいに顔を歪め、アドルフォ王太子は興味深そうに目を輝かせている。


「聖女様には兄がいたんですネ?」

「はじめまして。アドルフォ王太子殿下。ヴィリアー伯爵家のグレイと申します」

「はじめまして! 聖女様には似てナイですネ」

「血は繋がっておりませんので」

「なるホド!」


 遠慮なくジロジロと見てくる王太子にげんなりしていると、グレイの右腕に何かが掴まってきた。
 さっきまで一緒にいたピンク髪の令嬢だ。
 まるで自分を迎えにきてくれたとでも思っているのか、ニヤニヤと嬉しそうにグレイを見上げている。
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