心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
「あ。その方がお兄様のパートナーなのですネ」
「……ええ。まあ」
なんでお前に『お兄様』なんて呼ばれなきゃいけないんだ。
そんな暴言は心にしまいマリアに視線を送ると、なぜか頬を少し膨らませたマリアが涙目で下を向いていた。
ついさっきまで笑顔だったはずなのに!? と、グレイはギョッとして目を見開く。
「マリア、どうした?」
「……なんでもない」
「いや。だが……」
泣きそうな顔をしているのに、怒っているような態度。
マリアの心情がわからず戸惑っていると、エドワード王子がマリアの肩を抱き寄せてグレイとの間に割り込んできた。
「マリアがなんでもないって言ってるんだからそれでいいだろう。マリア、あっちに行こう」
「……うん」
エドワード王子はそのままマリアの背中に腕を回し、グレイやアドルフォ王太子から離すかのようにその場からいなくなってしまった。
残されたアドルフォ王太子は2人のあとを追う気配もなく、どこか楽しそうにグレイとマリアの後ろ姿を交互に見ている。